第12回・1976年
人の成長を思う
~カネボウ化粧品中央教育センター~

カネボウ化粧品中央教育センターを象徴する設備のひとつ、ステンドグラスの天窓。
太陽の光が東から西に差し込むようになっており、丸い輪は太陽の恵みと人の和を意味しています。
ここに集い、学び、コミュニケーションを深めながら互いに磨き合って成長しようという思いが込められています。

1961年より事業の多角化を進めたカネボウは、とりわけ化粧品事業の成長に期待を寄せ、それを実現させるには「人の成長」が不可欠という考えから、1963年に川崎と神戸に教育センターを開設。その後、1976年には、ビューティカウンセラーをはじめとする全国の社員、チェーン店の皆さまなどが、知識・技術を習得し、感性をも磨く拠点として「カネボウ化粧品中央教育センター」を設立しました。横浜の丘陵地に建てられたこの施設の設計コンセプトは「伝統と発展」。英国から運んだ素焼きレンガを外壁に用いてカネボウの「伝統」を表し、見通しの明るい広い窓をもって「発展」を表しました。そして、館内の設備・備品には、受講者の成長を祈るさまざまな思いが込められました。

館内に入ると、広いラウンジがあります。そこは、各地から招集された社員が、久しぶりに再会した喜びを交わす場でもあり、研修で初めて会った者同士が休憩時間にくつろぎながらコミュニケーションを深める場でもありました。そのラウンジの空間の広さは豊かさを示し、足元の葡萄色の絨毯は大地に実る秋の穀物・果物などを表しており、研修での実り(成果、成長)が多くなるようにという願いが込められていました。ソファーは、隣り合わせに腰かけることで会話の親密度が深まることを狙い、対面ではなく、あえて横並びに配置されました。厨房と食堂を仕切るレリーフには豊かに実って首を垂れた稲穂がデザインされました。これもまた、研修の実りへの願いと、謙譲の精神(相手を敬い、相手にゆずる)を表しています。

館内のそこかしこには、著名な芸術家の作品が配置されました。エントランス正面には、東山魁夷画伯(1908-1999年)の大作が惜しげもなく飾られました。この作品は、この教育センターのために描いていただいたもので、東山画伯をお招きしての除幕式がここで行われました。
また、ラウンジの一角には、日本彫刻界の第一人者である佐藤忠良(さとうちゅうりょう、1912-2011年)先生の1974年の作品「帽子立像・希望」が横浜の丘から遥かな海のかなたを見つめる形で配置されました。この作品には、カネボウ化粧品に関わる皆さんが、常に希望を持ち続けられるようにという願いが込められました。
さらに、宿泊棟の全室の床の間には、百歳を超えて今なお現役で創作を続けられている篠田桃紅(しのだとうこう、1913ー 書家・美術家)先生の作品「いろは文字」の額が飾られました。これは、「迷いが生じた時にはいろはの基本に戻りなさい」という示唆を受講者に示したものです。
屋外には、外国からのお客さまに喜ばれた茶室と庭園がありました。作庭は、赤坂離宮やホテルニューオータニの日本庭園を手がけた、当時80歳の岩城亘太郎(いわきせんたろう、1898-1988年 造園家・作庭家)氏によるもので、石一つひとつにまで岩城氏の示した信念が現れ、多くの作品の中でも氏自愛のものと伝えられています。
これら多くのホンモノの芸術と身近に接することで、受講者の感性が無意識のうちに養われることをも企図していたのです。

2013年、老朽化により38年間にわたる役割を終えましたが、化粧品販売に不可欠な「お客さまの気持ちに寄り添う誠実な心」と、「お客さまのご要望にお応えするための知識・技術」が、多くの社員やチェーン店の皆さまに培われ、そのマンパワーと感性は、今もカネボウ化粧品のモノづくりや接客サービスの大きな原動力となっています。